バルセロナから(2018年2月6日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(11)女忍者
バルセロナから(2018年2月6日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(11)女忍者
マリアは、ここ佐分利探偵事務所の大家の娘だ。スェーデン人の母親がこのピソ(スペインの集合住宅)の経営をやっていて、母一人子一人の彼女たちはこの事務所の上に住んでいる。事務所設立当時は彼女はまだ中学生だったが、今はバルセロナ自治大学で日本学を学んでいる。
「せっかくの申し出だが、マリア、この事件はとても危険なんだ」と私は機先を制するつもりで彼女に片目をつぶって見せた。すると彼女は、間髪を入れず、
「ケン、サムライさん、私にも手伝わせて。悪いけど今の話、全部聞いちゃった」と佐分利にその青い瞳を投げかけた。
「そうさ、な」佐分利は、さっきまでの難しい顔つきを緩めて、
「じつは、マリアにも役割を考えているんだ」と言ったものだ。私は不安を隠しきれず、思わず佐分利の顔を覗き込んだ。 何か考えがあるのだろう。その場は私はそれ以上のことは口を挟まなかった。マリアの利発さや見かけからは想像できない身体能力は私もよく知っていたが、この事件の底知れぬ不気味さにも気付き始めていたのである。
後日、マリア自身もこの事件の背景の深い淵を否応なく覗くことになり、私の忠告の意味を身を以て知ることになるのが目に見えていた。
さすがの“女忍者“マリアも今回ばかりはお遊びがとんでもない結果になるのではないか、という不安が私の頭をよぎった