日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年3月5日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(38)嬰児殺し

バルセロナから(2018年3月5日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(38)嬰児殺し


「あの“茶封筒”の中身は何だったんだ? お前は“機密書類”としか言っていなかったが…」


ラミロがサグラダ・ファミリアの塔から転落死した悪夢のような夜から一週間経ったある朝、佐分利の探偵事務所が開いたばかりの10時過ぎ、私はあの黒光りしたデスクを挟んで、佐分利と向かい合っていた。デスクの上には、いつものように眠気覚ましのエスプレッソコーヒーの甘い香りが漂っている。


佐分利は左手の甲で目をこすりながら、右手で小さなコーヒーカップの取っ手をつまんでそっと揺すりながら言った。


「あの中には“ガウディの遺言”が入っていたらしい。ガウディが亡くなる前々日に近しい友人が書き留めておいたものだ。ガウディは自分が手掛けた建築作品について様々な“心残り”をそこに述べたと言う」


「それで?」私は、この男のいつもの、もったいぶり、に横槍を入れるようにして言った。


「それで、なんでラミロが自分の命を賭してまで灰にしなければならなかったんだ?」


「まあ、そう急かすなよ」佐分利は私の肩越しに見えるガタピシャの窓の方に細い目を遣りながら続けた。


「その“心残り”の一つとして、サグラダ・ファミリア生誕のファサードに配置される彫刻にも言及した。三つの門のうち、左側の聖ヨセフに捧げられた“望徳の門”には、一見奇異に感じられる彫刻があるだろう?」


私はすぐに「ああ、あれか」と分かった。「嬰児殺しの兵士とその足元に縋り付く母親」の像だ。


右手に刀剣を持った兵士が左手で泣き叫ぶ赤ん坊を掴んで上から投げつけようとして振り上げている。兵士の足元にはすでにぐったりとなっている別の赤ん坊がいる。そして兵士に懇願しすがりつく母親の様子が描かれている。

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