バルセロナから(2018年11月30、12月1日) :6通りのローマ字書きを楽しむの?
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バルセロナから(2018年11月30、12月1日) :6通りのローマ字書きを楽しむの?
このローマ字表記法の不統一使用から来る国語教育及び日本語教育の現場への混乱は容易に予想できるし、それは現在すでに現れてきていると思われる。
一つ例を挙げて問題提起をしておきたい。
<私は富士山を知っています。> (1)Wata❲si❳ wa ❲hu❳❲zi❳san (wo) ❲si❳tte imasu.(日本式)
(2)Wata❲si❳ wa ❲hu❳❲zi❳san ❲o❳ ❲si❳tte imasu.(訓令式)
(3)Wata❲shi❳ wa ❲fu❳❲ji❳san ❲o❳ ❲shi❳tte imasu.(ヘボン式)
これらは「発音」を意識した場合のローマ字表記である。しかし、「日本式」の「を」は発音の表記❲o❳が無いから❲wo❳と書くしかない。「日本式」はもともとひらがな表記を意識したものだから、音を表すには不向きなローマ字であることが分かる。
次に「かな文字」を意識した場合のローマ字表記を示す。
(4)Wata❲si❳ ❲ha❳ ❲hu❳❲zi❳san ❲wo❳ ❲si❳tte imasu.(日本式)
(5)Wata❲si❳ ❲ha❳ ❲hu❳❲zi❳san o ❲si❳tte imasu.(訓令式)
(6)Wata❲shi❳ ❲ha❳ ❲fu❳❲ji❳san ❲o❳ ❲shi❳tte imasu.(ヘボン式)
6通りのローマ字書きの文を楽しめとでも言うのか、と思わず突っ込みたくなるようなローマ字表記の混乱ぶりである。
それでも、もし日本のローマ字綴りが日本語の本来の発音に近いものを示す役割を持つものを目指しているのならば、上の中では(3)がもっとも適切なローマ字となるのだろう。
当然のこだが、日本語学習者にはできるだけ早くローマ字に頼らない学習に入ることを薦める。
ただ問題は、日本に興味を持つ外国人のうち実際に日本語教師の指導のもとで勉強しているのは、ほんの数パーセントというのが現状ではないだろうか。
しかも「ローマ字の綴り方」は室町末期以来、日本社会に少なからぬ影響を与え続け、日本の初等教育の学校現場でも正式に教えられていることを考えると放っておけない面がある。
日本の初等教育では「訓令式」を基として教えられ、実社会では英語の発音の知識から「ヘボン式」を基として慣用を優先して使用されているようだが、最近ではパソコンなどのローマ字入力の影響で「日本式」(si,ti,tu,zi,woなど)が慣用として広まっているように思う。
現に「を」の発音を「wo」と思い込んで教えていた日本語教師を私は一人ならず知っている。私が危惧しているのは単に「を」が「wo」と発音されるようになる(つまり平安中期以前に戻る)ことだけではなく、日本あるいは日本人が「外国語としての日本語」を想定してそれに対してきちんと準備して来なかった「つけ」を、さらに先送りすることになってしまうのではないかということである。
具体的にいうと「ローマ字の綴り方」について昭和29年に国語審議会が答申したものを内閣訓令・告示として公布された「訓令式ローマ字綴方」(「日本式」を主とし「ヘボン式」{shi,chi,ji.など}も使用できるとしたもの)の影響を「外国語としての日本語教育」の現場が受け続けていることへの危惧である。
日本語母語者の間でローマ字を使わなければならない場面としては、今日では、日本語の文字が使えないという特殊な状況での電子メールの遣り取りなどが思い浮かぶ。
日本語母語者の間で交わすローマ字文では、
「Watasi wa huzisan wo sitte imasu.」でも
「Watasi ha huzisan o sitte imasu.」でも、
まず通じる。ヘボン式でも訓令式でもその混合したものでも、発音を写したものでも文字を写したものでもその混合したものでも、問題はあまりないだろう。
問題は、日本語を母語としない人を対象にローマ字を使う場合である。
これはきちんと共通認識を持てるようにしておくべきだろう。
(*次回は実際に外国人のローマ字の使用例を観てみよう)
写真は、私の著書の英語版校正の打ち合わせ。
アイルランド人の英語教師とアイルランド名物のギネスビール(Guinness)やジャイアンツ・コーズウェー(Giant's Causeway)の話を酒の肴にして、気の早い前祝い。パン・コン・トマテ(pan con tomate)が絶品だった。