日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年3月1日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(34)月は隠れ生暖かい風が

バルセロナから(2018年3月1日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(34)月は隠れ生暖かい風が


(写真:サグラダ・ファミリア尖塔内部の螺旋階段。飲み込まれた龍の喉を駆け上がる気分になる)


我々は「生誕のファサード」の四本の尖塔のうち、中央の二塔を繋ぐ渡り橋のあるところまで階段を降りて行った。佐分利はこうした事態になった場合をすでに想定していたようだ。螺旋階段を数周廻り降り、夜風が吹き込む踊り場に着くと、すぐさま佐分利は躊躇なく渡り橋へ出た。月はいつの間にか雲間に隠れていて、闇は深くなっていた。彼は腕時計に仕組んであったライトをその先へと照らした。そしてその光の束をゆっくりと隣の塔の入口へと移動させた。


すると、そこに黒い人影が浮かび上がり、我々の方を見ているではないか。佐分利はさらに光の束をその人物の顔に集中させた。…何ということだ。そこに能面のような青白い笑みを浮かべていたのは、ペドロだった。あのペドロ・フェルナンデス・ナカモトではないか。真剣を抜いての勝負で佐分利に破れ、今病院で治療しているはずのあのペドロ、…いや、そんな馬鹿な…。私の戸惑いを見透かしたかのように、佐分利はその人影に向かって口を開いた。


「ラミロ、…やはり、な」佐分利はちらっと横の私を見て、再び人影に向けた眼を針のように細めて言った。

「ラミロ・ファルナンデス・ナカモト、待っていたぞ」このサグラダ・ファミリアの尖塔を巻き込んでくる風にかき消されそうな静かな物言いだったが、妙にドスの効いた響きがあった。秋だというのに生暖かい風が我々を包んでは離れた。すると、尖塔の上に逡巡していた一固まりの雲が我に帰ったように流れ、隠れていた月が半分ほど顔を覗かせた。その人影の姿も鈍い月光にあぶり出されてきた。ペドロ、いや「ラミロ」なる男は左手に何やらぶら下げていた。さっきマリアが探していた茶封筒に違いない。


「ラミロ、その封筒は戻してもらおう」佐分利の言葉にラミロは能面のような顔を一瞬何かに怯えたように変えたが、すぐ元の青白い薄笑いに戻った。そして、「ふふふ」と不気味な声で笑った。また生暖かい風が我々を抱きすくめて来て、スッと私の背筋に入り込んだ。


(写真:サグラダ・ファミリア尖塔内部の螺旋階段。飲み込まれた龍の喉を駆け上がる気分になる)

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