日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月28日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(33)消えた茶封筒

バルセロナから(2018年2月28日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(33)消えた茶封筒


月の光が妙に冴える夜サグラダ・ファミリアの内部に忍び込んだ我々は、その部屋を出て螺旋階段をさらに上に進んだ。マリアのかざす懐中電灯の灯りを頼りに我々三人は黙々と階段を上って行った。暗闇の中で足音だけが響き、奇妙な緊張感を共有していた。螺旋を何周か廻った所で、マリアが立ち止まった。ここで行き止まりだ。


そこには扉らしいものはなかった。また隠し扉があるのだろう。私はマリアの顔を覗き込んだ。彼女は今度は壁には目もくれず、躊躇(ちゅうちょ)なくしゃがみこんで床を手のひらで撫で回した。そのままの姿勢で少しずつ移動しながら這い回るように何かを探した。

懐中電灯を頼りにしばらく床を這っていたマリアが、動きを止めた。


「あった」そう小さく呟(つぶや)くと彼女は、指先で抑えたその床の部分を押して左右にスライスさせた。すると中から引手らしいものが出てきた。それを上に引っ張ると小さく床がめくれ上がり、人ひとりが入れるほどの入口が現れたではないか。まず佐分利が入り、暗闇の穴に続く梯子(はしご)を降りて行った。


マリアに続き私も梯子段を伝って暗闇の底に降り立った。窖(あなぐら)の低い天井にぶら下がった裸電球を点けると、古びた机と椅子がぽつんと置かれているほかは、一番奥の方に年季の入った金庫のようなものが黒光りしているのみであった。


マリアはその黒金庫に走り寄ってしゃがみ、中央のダイヤルを手元のメモ用紙を見ながら慎重に動かした。そして、金庫に耳を寄せ、微かにカチという音を聞いたようだ。ゆっくりと扉を開けると、中に大型の茶封筒が幾つか見えた。しかし、それらは乱雑に置かれていて、それを見た佐分利の顔が僅かに歪んだ。

「やられた…」マリアが佐分利を見上げた。どうやら"先客"がいたようだ。

我々はもう一度目当ての茶封筒を探したが、やはり見つからなかった。


「まだ、その辺にいるはずだ。急ぐぞ」佐分利は珍しく動揺していた。抑えたつもりの声が裏返っていた。彼はこの窖に入ってすぐ電球を触っていた。点ける前の電球が暖かかったに違いない。結果は予測していたが念のためマリアに確認させた、ということらしい。我々は全ての封筒を金庫に戻し、窖を出た。いよいよ「狼男より恐ろしい奴」とご対面か。私は軽く身震いした。それにしては風は妙に生暖かいのだ。

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