日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月25日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(30)佐分利健、何という男だ

バルセロナから(2018年2月25日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(30)佐分利健、何という男だ


「健!」マリアが佐分利に駆け寄ろうとした。佐分利は左掌をマリアに突き出して待ったをかけた。そして右手の真剣の剣先を挙げると男に近づき、倒れた男の右手から僅かに離れた刀剣の柄を左手で握って拾い上げた。


男の剣先には赤いものが滲んでいた。二人が交差した時に佐分利の左肩を引っかけた跡だ。男の刀剣を握り直して、そこで佐分利は初めて「ふー」と息を吐いた。それから、マリアたちのほうを見てやっと安堵の表情を見せた。


 私が駆け寄り、佐分利から二本の刀剣を受け取った。すると、佐分利は放心したようにその場に座り込んで右手で左肩を押さえた。

「傷は深いのか?」私が声を掛けると、

「いや、大したことはない」佐分利は苦笑いをつくってみせた。


いつの間にか傍に来ていたマリアがハンカチを取り出して、素早く佐分利の脇から肩へ巻いて強く結んで止血をした。佐分利は一瞬顔をしかめたが、思い直したように「よしっ」と自分に言うと、むっくりと立ち上がった。


そして倒れ込んでいる男のほうに目を遣って、

「峰打ちだ」と呟いた。見ていた者には全く分からなかったが、佐分利は切り込んだ際に刀剣が男の身体に届く寸前で刃を返したのだった。この凄まじい切り合いの中で、何という男だ。私はいつもながら、この佐分利という男の胆力の強さと冷静さに舌を巻いた。


「しかし、あばら骨の数本は折れているだろうから、すぐ病院に運んだ方がいい」佐分利はこう言って、私が鞘に納めて渡した愛刀を愛おしそうに見つめた。

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