日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月24日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(29)下段白眼の剣法

バルセロナから(2018年2月24日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(29)下段白眼の剣法


 佐分利はずしりと重い真剣の感触を確認するように、柄に掛けた両手を握り直した。真剣で勝負したことはないが、普段から真剣での構えと振りの稽古を怠らなかった。それは少年時代から父の厳しい指導の一環だった。道場での稽古が終わった後でも、必ず探偵事務所の奥で真剣と向き合っていた。


竹刀や木刀と違って、真剣で構え振りを繰り返す稽古の中で、心身の奥のほうから自分でも慄(おのの)くような集中力が吹き出してくるのを覚えるのである。その成果が文字通り真剣勝負という形で試される日が来ようとは、佐分利自身も思ってもみなかった。

 

佐分利は愛刀を下段に構え、その剣先をゆっくりと踏み込んだ右足先に向けた。男はちらりと佐分利の剣先を見遣ったが、上段に構えたまま能面のような表情を崩さなかった。


じりじりと間合いを詰めてくる男に、佐分利は測ったように後退りし、二人の間は見えない棒で閊(つか)えているかのように変わらなかった。間合いを保ったまま後退りする佐分利がぴたりと止まった。その時、佐分利の左後方にある明り取りの小窓から暮れなずむ陽光が差し込んでいた。

下段に構えている佐分利の刀身が微かに右に傾いた。すると愛刀、出羽国住人大慶庄司直胤の太刀は明り取りから差し込む陽光を集め、男の細い眼に反射した。佐分利の愛刀は眩(まばゆ)い白い光の束となった。男が一瞬眉をひそめたその瞬間、佐分利が鋭く男の右に踏み込んだ。男も猛然と踏み込んで来て、二人の太刀が下と上から袈裟がけに閃光を放った。二人が交差して互いの位置が入れ替わった。


二人は背中合わせのまま、しばらく時が止まったかのようだった。と、佐分利の左肩から赤いものが垂れ落ちてきた。ほぼ同時に、男のほうは青ざめた能面の顔を歪めた。次の瞬間、長く尾を引いた男の影はグラリと揺れた。男は「むむ」と鈍く呻き、堪えきれず右膝を床に突き、右手の太刀の柄頭(つかがしら)で床を突いて、辛うじて身体を支えた。そして、そのまま右に転がるように崩れ落ちた。

 佐分利は父から伝授されていた北辰一刀流の「下段白眼」の剣法を使ったのだった。

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