日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月23日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(28)サムライ「真剣」を抜く

バルセロナから(2018年2月23日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(28)サムライ「真剣」を抜く


佐分利のその動きに男がアッと思った瞬間、佐分利の右手から竹刀が矢のように放たれた。男は眼前に飛んできた竹刀をすんでのところで逆袈裟(けさ)切りで払い上げた。その一振りが男の態勢に隙を生んだ。すかさず佐分利は怒涛の勢いで男との間合いを一気に詰めると、左手の竹刀の剣先が男の右眼を目掛けて呻(うな)りを挙げた。


とっさに男は逆袈裟(けさ)切りで振り上げた右肘で、佐分利の竹刀の剣先を払って右に体(たい)をかわした。佐分利の剣先は辛うじて男の右眼から外れて頬骨をかすめたが、勢い余った佐分利の態勢は男の返す一太刀に無防備にも見えた…「健!」マリアの悲鳴が聖堂に鳴り響いた。男に対してほとんど横向きになった佐分利健はしかし、予想もしなかった動きを見せた。なんと左手の竹刀も放し、丸腰になって男の右脇腹に組み付いたのである。


まったく想定外の佐分利の動きに、組み付かれた男は「ウッ」と鈍い声を発して足掻(あが)いたが、堪らず冷たい聖堂の床に左手を突き、真剣を持つ右手も佐分利の頭に右脇を突き上げられ動きが封じられていた。その隙を逃さず、佐分利は組み付いた腕を解いて左足で強く床面を蹴った。ふわりと舞った佐分利は男の後方数メートルに降り立つと、腰を落とし素手の両手を構えた。すでに男は立ち上がり、佐分利に正対して右手の真剣を中段に構えていた。


 聖堂に再び緊迫感が漂い始めたその時、

「健!」マリアが鋭く叫び、佐分利に向けて何かを放った。佐分利は男に正対したまま、視界に入って来たそれを右手で掴み取った。刀剣だった。急を聞きつけてマリアが佐分利の探偵事務所の奥の部屋から、あの出羽国住人大慶庄司直胤の太刀を持ち出して来ていたのだ。佐分利は男に正対したまま、その刀身を抜いて鞘を私に投げ返した。


一瞬私と目があったが、すぐに針のような鋭い眼で完全に男の動きを捉えていた。男は中段の構えからゆっくりと上段に移し、じりじりと間合いを詰めて来た。息苦しいくらいの張りつめた緊張感が聖堂内を凍り付かせた。真剣を抜き合っての、かつてない佐分利の勝負を目の当たりにして、私の動悸の激しさは極限に達していた。

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