日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月22日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(27)武蔵の「二天一流」

バルセロナから(2018年2月22日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(27)武蔵の「二天一流」


「勝負あったな」佐分利は呟くように男に言った。男は無言のまま左手で右手首を押さえていた。叩き落とした竹刀を佐分利が拾おうとしたその瞬間、男が右手を肩越しに背中に廻した。男の背中には真剣の太刀が括られていた。


「サムライ、気をつけて!」聖堂内に悲鳴のような女の叫び声が響いた。その叫び声よりも先に佐分利は動いていた。凄まじい殺気を感じた佐分利は、その驚くべき動物的勘と身体能力で右足を軸に男の左側から数メートル横っ飛びしていた。そして、二刀流のように二本の竹刀をハの字に構えて男に正対した。


 叫び声の主はマリアだった。私とマリアはさっきから聖堂入り口の門の陰で様子を窺(うかが)っていたのだ。私はジョルディからの連絡で探偵事務所にいたマリアを連れてここに駆けつけて来ていたが、すでに佐分利と男の勝負が始まっていて、その緊迫した空気に聖堂内に入るに入れなかった。今、二人の対決が再び始まろうとする不気味な沈黙の中、私とマリアはジョルディたちのいる所まで一気に駆け寄った。


 真剣を抜いた男の眼を見据えたまま、佐分利は二刀流中段の構えで間合いを取っていった。ハの字に構えた二本の竹刀は、次第に両の剣先が交わり十字の構えに移っていく。その十字の剣先を男の薄墨で引いたような表情のない眼に合わせた。男は、真剣の太刀を右手にだらりと提(さ)げたまま、じりじりと後退りしていく。その表情には不敵な笑みを浮かべているが、佐分利の二刀流が男に戸惑いを与えているようだ。


佐分利は日本を出ることが決まった時、父から宮本武蔵が開いた「二天一流」を教わった。二刀流を心得ていれば逆に一刀で戦う意味が分かってくる、という父の言葉を覚えている。利き腕でない左手一本でも戦える技術はその時に習得した。読まれまいと細めた男の眼の動きに、微かな戸惑いが生じたのを佐分利は見逃さなかった。ススッと滑るように男との間合いを詰めると同時に、右を上段に構えた。

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