日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月21日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(26)心も凍りつく叫び声

バルセロナから(2018年2月21日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(26)心も凍りつく叫び声


佐分利はその男に正対し、ゆっくりと歩み寄った。男との距離が三メートルほどに縮まったとき、左手に持っていた竹刀(しない)を上に放り投げた。竹刀はきれいな弧を描いて男の頭上で回転した。男は顔を佐分利に向けたまま、ちらと上方に目を遣り、右の掌を僅かに広げて落ちてくる竹刀の柄(つか)を掴んだ。と、その瞬間、男の身体がツツと1メートルほど佐分利に向かって移動した。男の上半身は竹刀を受け取ったときのまま何のブレもなかったので、まるで男の背景だけが後ろに移動したかに見えた。しかし、佐分利もほとんど同時に素早く後退りし、三メートルの間合いは変わらなかった。


すると男はだらりと下げていた竹刀の先を佐分利の鼻先に向けた。佐分利は依然として竹刀の先を下げたまま、男の口元の辺りを視ていた。対峙した二人の影が天井窓から漏れる薄い陽で長く尾を引いている。そのまま壊れた絡繰(からく)り人形のように動かなくなってから、どのくらい経ったであろうか。一筋の汗が男の頬から首筋に伝ったとき、その口元が微かに綻(ほころ)ぶと、男は再び一気に間合いを詰めて、次の瞬間、飛鳥のように舞い上がった。舞い降りながら竹刀を振り下ろそうとしたが、そこに佐分利の姿はなかった。当然後退りしているはずの佐分利は、逆に厳しく間合いを詰めていたのだ。


ふわりと舞い降りた男は、とっさに右足を軸に気配を感じた後ろを振り向きざまに、竹刀の先を左下から斜めに切り上げた。その時初めて聖堂内に響き渡る叫び声を発した。それは鶴の求愛の叫び声に似ていたが、聞くものの心を凍り付かせるものだった。その叫び声が低い呻き声に変わったのは一瞬のことだった。男の竹刀は乾いた音を響かせて叩き落とされていた。次の瞬間、男の右手首に激痛が走った。佐分利の上段からの渾身の一振りが男の竹刀を叩き落とし、そのまま返しの一太刀で男の右手首を切り飛ばさんばかりに撥(は)ね上げたのだ。

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