日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月20日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(25)天才剣士

バルセロナから(2018年2月20日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(25)天才剣士

すると、鉄骨が落下した傍に組まれている足場の最上部、その薄暗い天井付近の澱んだ空気が微かに揺れた。その空気の澱みに顔を上げて、佐分利はその威圧感のある声を聖堂内に響かせ続けた。その声は高い天井にエコーのように響き渡った。 「あのサグラダ・ファミリアの晒し首の件と俺への襲撃の件を線で結んだとき、ピンと来たよ。お前以外の人物を考えることは難しい、ってことをね。六年前の天才剣士の成れの果てがこれか。弱冠十六歳で特別に参加を許された全欧剣道選手権の準決勝で、相手の喉を突いて殺してしまった。そして、同世代の誰もお前の相手でなくなったとき、俺のところに道場破りに来た。あのときは運よく俺が勝ったが、あれからお前は日本に行って武者修行を積んだらしいな」


ここまで言って、佐分利はニヤリと笑った。すでに夕闇が迫って薄暗くなっていた聖堂内だが、その笑みには微妙な緊張感が含まれていた。佐分利はジョルディが持ってきた竹刀袋から二本の竹刀を抜き出した。それを一本ずつ両手に持ち、仁王立ちになって声を上げた。 「さあ、その修行の成果を見せてくれないか。あの時、お前は少年だった。今度こそ本当の勝負をしよう。俺が負けたら、潔くこの事件から手を引こう。その代り、お前が負けたら真の剣士らしく、罪を償うんだ」


その声が聖堂内に響き終わり、しばらくの沈黙がその場の空気に耐えがたい緊張を走らせた。その張り詰めた空気をあざ笑うかのごとく、下の四人が見上げる足場付近から鉄管を伝って音もなく猫のようにスルスルと降りてきた男。全身黒ずくめの、あの男だ。佐分利からほとんど五メートルもない所に、この男は陽炎のように立っていた。 「ふふ。せっかくの提案だから、有り難く受けさせて戴くよ」

こう言うと、男はおもむろに覆面に手を掛け、それをゆっくりと剥いだ。覆面の下からは蒼白とも見える能面のような顔が現れた。

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