日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月7日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(12)黒装束の男

バルセロナから(2018年2月7日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(12)黒装束の男



 「あっ」と思った。その瞬間に、サムライは上半身を弓のように仰け反らせて逃れたが、危うく鼻先を切られるところだった。突然刃物が飛んできて驚いたが、それが手裏剣だと分かった時は、むしろ呆れてしまった。



 何しろ今は21世紀で、しかもここは地中海のほとりに位置するヨーロッパの都市バルセロナなのである。


彼の鼻先をかすめた手裏剣は林の木の幹に突き刺さり、黒く鈍い光を放っていた。サムライは身を屈めながら慎重に辺りを窺(うかが)った。


  東の空はようやく白々と明けてきた。彼は早朝のトレーニング中にこの奇妙な事件に巻き込まれたのだ。すんでのところで命拾いしたサムライは、全身の五感を研ぎ澄ませた。そのまま身じろぎひとつせず、長い沈黙を遣り過ごした。


  何分ぐらい経ったであろうか、朝もやの林の中で幽かに葉の擦れる音を、サムライは聞き逃さなかった。その方向に振り向き際に、彼の手から礫(つぶて)が矢のように放たれていた。礫は古木の枝に当たりめり込んだ……と、その時、短い呻(うめ)き声が漏れた。


 同時にその枝は古木から離れ落下した。枝と見えたのは黒装束の男の脚で、落下しながら一瞬その全身を垣間見せたが、ふわりと身を翻し湿った土を蹴ったかと思うと、ゴム毬のように跳ねあがり、枝から枝へ跳び、つむじ風を残して消え去った。


その様子を凝(じっ)と眼で追っていたサムライは、黒装束の男が木立の奥に消えるのを見届けると、微かに首を右に傾けたが、それ以上深追いはしなかった。 

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