日本語教育・日本語そして日本についても考えてみたい(その2)

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バルセロナから(2018年2月4日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(9)転落死と晒し首

バルセロナから(2018年2月4日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(9)転落死と晒し首



「君の友人の日本人石工、加納公彦さんね。彼が私の携帯の留守電に入れてくれていたメッセ―ジでわかったんだけど、五十五年前にサグラダ・ファミリアから転落死したセルヒオ・マルティネス氏は、今回の晒し首の被害者、アンヘラ・マルティネスさんの祖父ということだ。まあ、加納さんの立場もあるだろうし、ガウディの創作意図を巡った対立もあるだろうし、本当は警察でなく、私のような探偵に秘密裏に真相を解明してほしい、というのが、正直なところだろう」



  佐分利は探偵事務所の窓から外を見やったまま、軽く吐息をついて、それきり黙った。こういう時に彼が見せる針のような細い眼には、私にさえ気取られまいとする用心深さがあった。彼の探偵としての集中力が極限まで高められた証拠である。


                                                                                                                                                  


 「加納も危ないな」私は彼の集中力が外界をシャットアウトする前に、一番気になる問題に入った。私の多少上擦った言葉に、佐分利は窓から外を見つめたまま、


 「そう、彼は今ではガウディ継承で革新派の筆頭と見られているからね」と呟くように言ってから、ポケットから煙草を一本取り出して口にくわえた。そして、ゆっくりとソファに座りながら、またその煙草をポケットに戻して話を続けた。



 「殺害されたアンヘラさんは、革新派のグループ”ガウディ未来の会”


の中でもこれから五年先を見越したサグラダ・ファミリア継続建築のプラン作成に大きな影響力を持っていたんだ。サグラダ財団理事長の娘さん、ということもあってね」



 佐分利は、口を挟もうとした私に、右の掌を軽く上げて、


 「加納さんは、アンヘラさんと彼女を警戒するグループ”ガウディを伝える会”の長老たちとの間を取り持とうとしていたようだが、それが却って、彼女に反発する人たちに加納さんが警戒されることにもなったようなんだ。だから……」と言いかけて、彼の目がひときわ鋭い針のようになった。

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