バルセロナから(2018年2月2日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(7) 転落
バルセロナから(2018年2月2日) : 「サグラダ・ファミリア異聞」(7) 転落
ガウディがサグラダ・ファミリアに残した彫刻のうち、「ガウディコード」と呼ばれる謎めいたものがいくつかある。その中でも「嬰児殺しの兵士とその足元に縋(すが)り付く母親」の像は、ガウディの創作意図を巡って、数々の論争が繰り返されてきた。それは、ガウディの意志を継ぐ者は誰か、真のガウディの後継者は誰なのか、という激しい論争に発展していった。
そうしたさ中に、今から五十五年前の11月の寒い夜、一人の若い石工がサグラダ・ファミリアの「生誕の門」の上から転落して死亡した。当時の新聞には小さく事故死として報道されたが、内部関係者の間では様々な憶測が飛び交っていた。
ガウディの後継者争いに巻き込まれて苦悩の末、投身自殺した……あるいは、この若い石工の彫刻の才能を恐れた仲間の石工が突き落とした……というような噂が彼の死後数年は人々の口に上るようになっていた。
いや、実は彼は落下した夜「嬰児殺し」の彫刻に密かに手を加えようとして、夜な夜な這い回ると噂のあった彫刻たち、人面魚や人面トカゲの悪魔たちに尖塔まで追い詰められて落下した、という噂までまことしやかに囁かれた。